2008.10.30 (Thu)
二十九――落ちている肉は食べちゃ駄目
意思を、決意を持った戦士たちが、全ての黒幕に立ち向かうために、確実に動きを見せていた。そしてそれらは、後に歩み寄ることになる。
そしてこちら、遺跡の入り口付近。
「あれって」リュカが高台から指差したのは、巨大な岩の塔だ。それほど高い塔でもないのだが、鋭く尖った頂には、薄く雲が架かっている。
青い空には太陽が浮かんで、リュカ達を照らしており、風も暖かい。しかしリュカは、緑など何処にもない岩肌を見ていると、今にも冷たい風が肌を刺しそうな気がしてきた。
「自然の岩を崩して、人間が造ったものみたいだね。昔の人が神様を祭った遺跡、あるいは入ると祟りや災いが降りかかる神域――」
隣に居たレッドの、どこか真剣味を帯びた目と口調に、リュカの心臓がドキリと跳ねる。
――レッドさんって、こんな人だったっけ? 僕と同い年くらいだと思うんだけど、何でこんな難しい言葉を知ってるんだろう。何て言うか、もっと変態……もとい、明るい人だと思ってた。
「シンイキ? な、何でレッドさん、そんなに難しい言葉を知ってるの?」
「意味はよく分からないけどね、誰かの受け売りだよ」
あはは、とレッドは笑った。その笑顔を見て、リュカはほっと胸を撫で下ろす。
その時、空の向こうで何かが光った。それはどんどんリュカ達に近づいて行く。ばさ、ばさ、と豪快に羽ばたきながら。そう、それはまるで、神話で聞くような、ドラゴン……のような姿をしていた。鮮やかなオレンジ色の体に、コウモリに似た巨大な翼、長くうねる尻尾。その先端では何と、真っ赤な炎が燃え盛っているのが見えた。
「あれっ……もしかして!」
「どうしたの、レッドさん?」
「リザードンだよ! リザードン!」
レッドはすごい勢いでリュカに振り向く。いきなりのことで、びくっとリュカの肩が震えた。
「リザ、リザードン?」リュカが冷や汗を垂らしながら質問すると、レッドは興奮した様子で頷く。その頬は薄っすらと上気していて、目はらんらんと輝いており、レッド自身の興奮を映し出していた。
「ああ! 俺の可愛いポケモンの一匹、リザードンだ! すっげえ強いんだよ、ぐへへへ……さあリザードン、こっちへおいで!」
レッドは、空を滑るリザードンに向き直り、両手を大きく広げた。俺の元へおいで、という合図のようだ。
しかしリザードンはそれを完璧に無視し、岩の塔の周りをぐるぐると飛び回っている。そしてそのうち、地面に降り立ち、ふもとにある塔の入り口の中へ入っていった。
――ああ、行っちゃった。
リュカはこっそりとレッドの横顔を盗み見る。彼はよほどショックだったのか、しばらくその姿勢のまま固まっていた。
「えっと……レッドさん、大丈夫? 僕にはこれくらいしか言えないけど――気を落とさないで」
「――うん、大丈夫だよ。追いかければいい話でしょ? リザードン、待ってろよ! 俺のところに戻ってきたらポフィン一年分やるからさ!」
そうレッドは叫んで、その場所から走り出した。ここは高台になっているので、そのまま真っ直ぐ進んだら、真っ逆さまに落ちて大変なことになるだろう。
レッドは興奮しつつも、それは理解していたらしい。左側から大きく回り道をして塔に行くつもりだ。
はあ、とリュカは安堵のため息を吐きながら、歩いてレッドの背中を追った。
平和な彼等のをつける、黒い影に気付くことなく。
☆
「あー……アイク、疲れた」
「何で俺に言う……俺も疲れたんだが」
「いや、おんぶしてもらおうと思ってさあ」
「あれ、マルスおんぶしてもらうの? じゃあアイク、僕もお願い!」
「出来るかあっ!! 俺も疲れてるって言っただろ、つーか何だお前らその笑顔!」
先程からこのような会話ばかり続いている。メタナイトは頭を抱えた。
マルスはずっとおんぶおんぶ言ってるし、ネスもそれに合わせておんぶおんぶと被せる。アイクは完全に彼等のツッコミに回っていて、体力的にも精神的にもダメージが大きいようだ。
おんぶ、と言ってるマルスの方は、表情に全く疲れの色を浮かべず、むしろこのメンバーの中で一番余裕そうな笑顔を浮かべている。ネスもやはり子供だからか、体力的にきついのだろう、少しだけ疲れた様子を見せるが、成人のアイクよりはまだまだ元気だ。そう、この中で一番大人であるはずの彼が疲れている、何と言う情けなさ……ではないのだ。単にマルスとネスが虐めているだけ。
マルスとネスは、アイクを虐めているから、精神的に潤っているのかも知れない。――何と言うサディストだ、とメタナイトはさらにため息をつく。
「メタナイトも、この二人になんか言ってやれっ……!」
「アイクっ。メタは疲れてるんだから、あんまりちょっかい出しちゃ駄目だよ」
「おま……俺も疲れてるんですけど! おい、メタナイトーッ!」
アイクがメタナイトに向けて助けを求めた。しかし、その腕は後ろで黒い笑みを浮かべているマルスにがっちりと掴まれている。「もうここからは逃げられないよ」マルスはそう考えてるんじゃなかろうか、とメタナイトは笑った。
「メタナイトって、何でそんなマルスに気に入られてるの?」
「いや、分からぬ」
「あ、メタナイトは可愛いからね! アイクより人気ありそうだよね。多分そうでしょ?」
――可愛い、か。……というか、『人気』とは誰からの人気だ?
「さあな?」ネスの質問に、メタナイトは、口の端を吊り上げて少しだけ笑ってみせた。と言っても、その表情は仮面に覆われており、ネスからは見えないのだが。
「何でさっきまでは曇ってたのに、今はこんなに晴れてるんだ……」
「僕が天気を操ったんだよ! アイクが苦しむと思ってやったんだ。で、作戦成功ってわけ!」
「本当か! すごいな。……つーかお前それ、ふざけんな!」
分かりやすい嘘を吐くマルスもマルスだが、それを信じるアイクも相当のアホだ。いや、疲れで頭の回転が鈍いのかもしれない。とメタナイトは信じることにした。
とにかく、歩いていけばこの荒野も終わる。それまでメタナイトは、この会話をずっと聞くことになるのだ。いや、今までもこんな会話を聞いてきて、呆れもしたが、それはそれで楽しいとメタナイトは思っていた。
(いや、私はサディストなわけではないぞ、決して。マルスのようになってなるものか)
そう心の中で言い訳をしながら。
しかし、自分がこの論争に巻き込まれるのはごめんだ、とそう思っていた。
はあ、とメタナイトは大きく息を吐く。本日十数回目のため息だ。
その時だった。アイクが異変を感じ取ったのは。
「……なあ、マルス」
「何? アイク。肉でも落ちてた?」
「違う。真面目な話だ。あれ……何だ?」
地平線の向こうを指差すアイク。そこには、僅かながら砂埃がたっていた。それはだんだんと大きくなっていく。
マルスはアイクの質問に、平然とした顔で答えた。
「ああ、大量のクリボーだね、あれは」
「マルス、よく見えるねー……」
ネスが目を細めながら砂埃を見つめる。マルスはにっこりと笑って続けた。
「ああ、言っとくけど、僕は結構前から気付いてたよ? でも、言うか迷ってたんだよね。クリボーって倒して何か得があるのかなーって」
「損得の問題じゃねーだろ、これは。あいつ等がこの世界に害があるっつーなら――俺は行くから」
アイクは珍しく、マルスの言葉に対して冷静に言い放った。そして、ラグネル片手に崖を滑り降りていく。ブーツと土が擦れあう音が聞こえた。
「大量のクリボー潰すのって楽しそうだな。僕も行く!」ネスは楽しそうに声を張り上げ、アイクの後を追った。この場に残ったのは、メタナイトとマルスのみ。
「損得……確かに、ね。この世界の問題だったっけ。アイクもたまには良いこと言うんだな」
困ったように頭をかくマルス。
「メタは……行く?」
にやり、という表現が正しいだろうか。その蒼い瞳は、やや挑戦的な眼差しをメタナイトに向けていた。
もちろんだとメタナイトが頷くと、マルスは驚いたように、少しだけ眉を吊り上げた。
「メタって、こういうの嫌がりそうだけどね」
「……失礼だな。私だって、戦士だ」
「そっか。だよね」
マルスは納得したように頷いた。そこで話が途切れる。
先に沈黙に耐えられなくなったのは、意外にもメタナイトの方だった。マントをこうもりのような羽に変形させ、二人の後を追って、崖を飛び降りて行く。
マルスはふっと笑って、崖に飛び込む。地面を滑りながら、既に地上に降り立っている三人の姿を見つめていた。
そしてこちら、遺跡の入り口付近。
「あれって」リュカが高台から指差したのは、巨大な岩の塔だ。それほど高い塔でもないのだが、鋭く尖った頂には、薄く雲が架かっている。
青い空には太陽が浮かんで、リュカ達を照らしており、風も暖かい。しかしリュカは、緑など何処にもない岩肌を見ていると、今にも冷たい風が肌を刺しそうな気がしてきた。
「自然の岩を崩して、人間が造ったものみたいだね。昔の人が神様を祭った遺跡、あるいは入ると祟りや災いが降りかかる神域――」
隣に居たレッドの、どこか真剣味を帯びた目と口調に、リュカの心臓がドキリと跳ねる。
――レッドさんって、こんな人だったっけ? 僕と同い年くらいだと思うんだけど、何でこんな難しい言葉を知ってるんだろう。何て言うか、もっと変態……もとい、明るい人だと思ってた。
「シンイキ? な、何でレッドさん、そんなに難しい言葉を知ってるの?」
「意味はよく分からないけどね、誰かの受け売りだよ」
あはは、とレッドは笑った。その笑顔を見て、リュカはほっと胸を撫で下ろす。
その時、空の向こうで何かが光った。それはどんどんリュカ達に近づいて行く。ばさ、ばさ、と豪快に羽ばたきながら。そう、それはまるで、神話で聞くような、ドラゴン……のような姿をしていた。鮮やかなオレンジ色の体に、コウモリに似た巨大な翼、長くうねる尻尾。その先端では何と、真っ赤な炎が燃え盛っているのが見えた。
「あれっ……もしかして!」
「どうしたの、レッドさん?」
「リザードンだよ! リザードン!」
レッドはすごい勢いでリュカに振り向く。いきなりのことで、びくっとリュカの肩が震えた。
「リザ、リザードン?」リュカが冷や汗を垂らしながら質問すると、レッドは興奮した様子で頷く。その頬は薄っすらと上気していて、目はらんらんと輝いており、レッド自身の興奮を映し出していた。
「ああ! 俺の可愛いポケモンの一匹、リザードンだ! すっげえ強いんだよ、ぐへへへ……さあリザードン、こっちへおいで!」
レッドは、空を滑るリザードンに向き直り、両手を大きく広げた。俺の元へおいで、という合図のようだ。
しかしリザードンはそれを完璧に無視し、岩の塔の周りをぐるぐると飛び回っている。そしてそのうち、地面に降り立ち、ふもとにある塔の入り口の中へ入っていった。
――ああ、行っちゃった。
リュカはこっそりとレッドの横顔を盗み見る。彼はよほどショックだったのか、しばらくその姿勢のまま固まっていた。
「えっと……レッドさん、大丈夫? 僕にはこれくらいしか言えないけど――気を落とさないで」
「――うん、大丈夫だよ。追いかければいい話でしょ? リザードン、待ってろよ! 俺のところに戻ってきたらポフィン一年分やるからさ!」
そうレッドは叫んで、その場所から走り出した。ここは高台になっているので、そのまま真っ直ぐ進んだら、真っ逆さまに落ちて大変なことになるだろう。
レッドは興奮しつつも、それは理解していたらしい。左側から大きく回り道をして塔に行くつもりだ。
はあ、とリュカは安堵のため息を吐きながら、歩いてレッドの背中を追った。
平和な彼等のをつける、黒い影に気付くことなく。
☆
「あー……アイク、疲れた」
「何で俺に言う……俺も疲れたんだが」
「いや、おんぶしてもらおうと思ってさあ」
「あれ、マルスおんぶしてもらうの? じゃあアイク、僕もお願い!」
「出来るかあっ!! 俺も疲れてるって言っただろ、つーか何だお前らその笑顔!」
先程からこのような会話ばかり続いている。メタナイトは頭を抱えた。
マルスはずっとおんぶおんぶ言ってるし、ネスもそれに合わせておんぶおんぶと被せる。アイクは完全に彼等のツッコミに回っていて、体力的にも精神的にもダメージが大きいようだ。
おんぶ、と言ってるマルスの方は、表情に全く疲れの色を浮かべず、むしろこのメンバーの中で一番余裕そうな笑顔を浮かべている。ネスもやはり子供だからか、体力的にきついのだろう、少しだけ疲れた様子を見せるが、成人のアイクよりはまだまだ元気だ。そう、この中で一番大人であるはずの彼が疲れている、何と言う情けなさ……ではないのだ。単にマルスとネスが虐めているだけ。
マルスとネスは、アイクを虐めているから、精神的に潤っているのかも知れない。――何と言うサディストだ、とメタナイトはさらにため息をつく。
「メタナイトも、この二人になんか言ってやれっ……!」
「アイクっ。メタは疲れてるんだから、あんまりちょっかい出しちゃ駄目だよ」
「おま……俺も疲れてるんですけど! おい、メタナイトーッ!」
アイクがメタナイトに向けて助けを求めた。しかし、その腕は後ろで黒い笑みを浮かべているマルスにがっちりと掴まれている。「もうここからは逃げられないよ」マルスはそう考えてるんじゃなかろうか、とメタナイトは笑った。
「メタナイトって、何でそんなマルスに気に入られてるの?」
「いや、分からぬ」
「あ、メタナイトは可愛いからね! アイクより人気ありそうだよね。多分そうでしょ?」
――可愛い、か。……というか、『人気』とは誰からの人気だ?
「さあな?」ネスの質問に、メタナイトは、口の端を吊り上げて少しだけ笑ってみせた。と言っても、その表情は仮面に覆われており、ネスからは見えないのだが。
「何でさっきまでは曇ってたのに、今はこんなに晴れてるんだ……」
「僕が天気を操ったんだよ! アイクが苦しむと思ってやったんだ。で、作戦成功ってわけ!」
「本当か! すごいな。……つーかお前それ、ふざけんな!」
分かりやすい嘘を吐くマルスもマルスだが、それを信じるアイクも相当のアホだ。いや、疲れで頭の回転が鈍いのかもしれない。とメタナイトは信じることにした。
とにかく、歩いていけばこの荒野も終わる。それまでメタナイトは、この会話をずっと聞くことになるのだ。いや、今までもこんな会話を聞いてきて、呆れもしたが、それはそれで楽しいとメタナイトは思っていた。
(いや、私はサディストなわけではないぞ、決して。マルスのようになってなるものか)
そう心の中で言い訳をしながら。
しかし、自分がこの論争に巻き込まれるのはごめんだ、とそう思っていた。
はあ、とメタナイトは大きく息を吐く。本日十数回目のため息だ。
その時だった。アイクが異変を感じ取ったのは。
「……なあ、マルス」
「何? アイク。肉でも落ちてた?」
「違う。真面目な話だ。あれ……何だ?」
地平線の向こうを指差すアイク。そこには、僅かながら砂埃がたっていた。それはだんだんと大きくなっていく。
マルスはアイクの質問に、平然とした顔で答えた。
「ああ、大量のクリボーだね、あれは」
「マルス、よく見えるねー……」
ネスが目を細めながら砂埃を見つめる。マルスはにっこりと笑って続けた。
「ああ、言っとくけど、僕は結構前から気付いてたよ? でも、言うか迷ってたんだよね。クリボーって倒して何か得があるのかなーって」
「損得の問題じゃねーだろ、これは。あいつ等がこの世界に害があるっつーなら――俺は行くから」
アイクは珍しく、マルスの言葉に対して冷静に言い放った。そして、ラグネル片手に崖を滑り降りていく。ブーツと土が擦れあう音が聞こえた。
「大量のクリボー潰すのって楽しそうだな。僕も行く!」ネスは楽しそうに声を張り上げ、アイクの後を追った。この場に残ったのは、メタナイトとマルスのみ。
「損得……確かに、ね。この世界の問題だったっけ。アイクもたまには良いこと言うんだな」
困ったように頭をかくマルス。
「メタは……行く?」
にやり、という表現が正しいだろうか。その蒼い瞳は、やや挑戦的な眼差しをメタナイトに向けていた。
もちろんだとメタナイトが頷くと、マルスは驚いたように、少しだけ眉を吊り上げた。
「メタって、こういうの嫌がりそうだけどね」
「……失礼だな。私だって、戦士だ」
「そっか。だよね」
マルスは納得したように頷いた。そこで話が途切れる。
先に沈黙に耐えられなくなったのは、意外にもメタナイトの方だった。マントをこうもりのような羽に変形させ、二人の後を追って、崖を飛び降りて行く。
マルスはふっと笑って、崖に飛び込む。地面を滑りながら、既に地上に降り立っている三人の姿を見つめていた。
テーマ : スマッシュブラザーズX ジャンル : ゲーム
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